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背景

建設工事コスト

著者:バレット・ハリス、シニア経済アナリスト

過去1年間で、建設生産コストの上昇は全体として落ち着きを見せています。しかし、その表面的な安定の裏では、コスト形成の構造に大きな変化が生じています。 従来は資材価格の広範な上昇が建設コストを押し上げる主因でしたが、現在はその影響が弱まる一方で、人材不足による供給制約、特定分野への需要集中、そしてリスクを価格へ織り込む動きが、コストを左右する主要な要因となっています。

トレンド

建設コスト上昇率

世界の建設コスト上昇率は、2025年の4.2%から2026年には4.5%へとわずかに上昇しました。 アジア地域の平均建設コスト上昇率は約3.1%となっていますが、市場によって状況は大きく異なります。中国ではコスト上昇率が比較的低い水準にとどまっている一方、インドでは旺盛な投資活動を背景に、より高い上昇率を示しています。

建設市場の成熟度が同程度の地域間では、価格上昇率(2025年)は類似しています:

英国

北米

ANZ

欧州連合

同程度に成熟した建設市場を有する地域同士を比較すると、建設コストの上昇率は以下のような水準となっています。

英国

北米

ANZ

欧州連合

表面的には建設コスト上昇率は安定しているように見えますが、その背景にある要因は大きく変化しています。現在の建設コストは、もはや資材価格の広範な上昇によって主に左右されるのではなく、以下の要因によって形成される傾向が強まっています。

労働力の確保と賃金上昇圧力

特定セクターにおける旺盛な需要

施工会社の供給能力の制約

不確実性を織り込んだリスクコストの上昇

当面、建設コストの上昇率は現在の水準に概ね沿って推移すると見込まれています。 しかしその一方で、上振れリスクは徐々に高まっています。特に、エネルギー価格の変動性の高まりや地政学的な不確実性の増大は、今後のコスト動向に大きな影響を及ぼす可能性があります。

今後の建設コスト予測は、これまで以上に難しくなっています。市場全体に影響を及ぼすような大規模な供給網の混乱は想定されていないものの、コスト動向の振れ幅は広がりつつあります。その結果、建設コストの上昇率は、各市場固有の条件や環境にこれまで以上に左右されるようになっています。

価格設定

仮設・現場経費および一般管理費・利益

仮設・現場経費(Preliminaries) および 一般管理費・利益(OH&P:Overheads & Profit) は、この1年間で緩やかに上昇しました。その背景には、市場環境の不確実性の高まりを受け、施工会社がより慎重な姿勢でプロジェクトに臨むようになったことがあります。 2026年初頭に収集されたデータは、地政学的リスクへの懸念が高まっていた時期と重なっており、その結果、施工会社の見積価格には従来よりも高いリスク引当額(リスクプレミアム)が織り込まれる傾向が見られました。

仮設・現場経費および一般管理費・利益 (小規模案件)

詳細はこちら

仮設・現場経費および一般管理費・利益(大規模案件)

詳細はこちら

こうした全体傾向の一方で、セクター別に見ると収益性には顕著な差が見られます。

  • 回答者の27.0%が、データセンタープロジェクトを最も利益率の高い分野と回答
  • 回答者の23.0%が、企業向けオフィスを最も利益率の高い分野と回答

これらの分野で利益率が高い背景には、以下の要因があります。

  • 高度な技術的複雑性
  • 集中的な設備工事および試運転・コミッショニング対応
  • 対応可能な施工会社・専門業者が限られていること
  • 需要が旺盛で、かつ納期に対する要求が厳しいこと

一方で、住宅、オフィス、商業施設といった従来型の建設分野では、依然として利益率は比較的低い水準にとどまっています。これらの分野では施工能力と需要のバランスが比較的安定しており、競争も依然として激しいことがその背景にあります。

「利益率の動向は、施工会社の価格設定戦略が変化していることを示しています。現在は単純な価格競争ではなく、プロジェクトに伴うリスク、技術的な複雑さ、そして施工能力の制約を反映した価格設定が行われるようになっています。」

現在の入札環境を把握し、今後の変化を見通すことは、建設市場のサイクルを理解するうえで極めて重要です。また、将来の建設コスト上昇を予測するための重要な指標にもなります。

本レポートでは、入札環境を市場内の競争度合いに基づき1から5の尺度で評価しています。入札競争の状況を分析することで、市場全体の活況度や需給バランス、さらには今後の建設コストへの影響を把握することができます。

世界の入札市場では、近年見られた競争の激しい環境から、徐々に変化が生じています。入札参加者数は減少傾向にありますが、これは単に施工会社の数が減ったためではありません。むしろ、施工会社の受注残高が回復し、案件を選別して受注する動きが強まっていることが大きな要因です。

これは建設市場のサイクルにおける重要な転換点を示しています。施工会社は、より収益性や実現可能性の高い案件を優先するようになっており、その結果として以下の傾向が見られます。

  • 1案件あたりの入札参加者数の減少
  • 価格設定の厳格化
  • 利益率の改善

一方で、多くの地域では今後も入札環境は概ね安定的に推移すると見込まれており、市場が急激に変化するというよりは、需給が比較的均衡した状態が続く可能性が高いと考えられます。

図10:

地域別の建設入札競争状況

キー +

図11:

地域別建設市場の見通し

生産能力

施工能力 の制約

施工会社の供給能力は、現在、セクターによって大きな差が生じています。その背景には、分野ごとに異なる需要動向があります。 オフィス、住宅、ホテルなどの従来型セクターでは、施工能力は比較的安定しており、多くの市場で需給が均衡している、あるいは余力がある状態が60〜70%以上を占めています。 一方で、インフラ、産業施設、物流施設といった高成長分野では、施工能力の逼迫が進んでいます。 なかでも、データセンター分野は世界で最も施工能力が不足しているセクターとなっています。調査結果によると、世界の市場の70%超で、施工能力が逼迫または限界に近い状態であると報告されています。

データセンター分野における施工能力の状況は以下のとおりです。 - 17.0%の市場で需給が均衡している - 46.4%の市場で施工能力が逼迫しつつある - 25.9%の市場で施工能力が不足している

こうした需給の不均衡は、次のような影響をもたらしています。 - 利益率の上昇 - プロジェクト遂行リスクの増加 - 施工会社の価格決定力の向上

これは、コスト上昇と価格決定力が生産能力の制約を受けるセクターに集中する一方で、伝統的なセクターは依然として競争力を維持しているという、「二極化した市場」を示しています。

世界の建設コストランキング トップ10

ニューヨーク

サンフランシスコ

ジュネーブ

チューリッヒ

ロンドン

ロサンゼルス

東京

大阪

札幌

シカゴ

ランキング

国際建設コストランキング

国際建設コストランキングは、これまで述べてきた市場動向が、世界各地の建設コストにどのように反映されているかを示す「現時点のスナップショット」といえます。 高コスト市場の順位は、過去の調査結果から大きな変化はありません。ニューヨークとサンフランシスコは引き続き世界で最も建設コストが高い市場であり、ジュネーブとチューリッヒも引き続き上位に位置しています。

米国市場は全体的に依然としてコスト水準が高く、いくつかの都市が世界でも最もコストの高い地域として一貫してランクインしています。 その背景には、以下の要因があります。

  • 構造的な労働力不足
  • 賃金水準の上昇
  • 高付加価値セクターにおける持続的な需要

一方、ランキング下位の市場でも順位変動は比較的小幅にとどまっています。これは、世界各国の建設市場が、近年続くグローバルな混乱や不確実性に対して一定程度適応し、新たな市場環境を織り込むようになったことを示しています。 また、為替変動も一部の順位変化に影響を与えています。特に米ドル相場は、インフレ見通し、金利動向、地政学的情勢の変化に対する市場の期待を反映し、変動が続いています。

総じて、このランキングは、建設コストの地域差が、単純な物価の違いではなく、 - 地域ごとの労働市場の状況 - 成長分野へのエクスポージャー(需要の集中度) - 施工能力や専門人材の供給制約 によって形成されていることを示しています。

著者

バレット・ハリス シニア経済アナリスト


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